綱引きのイメージ

介護技術「ボディメカニクス」

介護技術の中でも、私たち介護職が活用できる「ボディメカニクス」について、社内研修にて話し合いました。

 

この「ボディメカニクス」についてのご紹介です。

 

ボディメカニクスとは、骨格・筋肉・神経・内臓などを中心とした、からだの動きの仕組み(メカニズム)のことです。ボディメカニクスの活用は、移動・移乗体位変換などの身体介護を行う場合の利用者の安全と介護職の腰痛予防に有効です。介護を必要としている方にはぜひ知っていてほしい、さらに、ぜひ活用していただきたいと思います。

 

 


ボディメカニクスの7原則

支持基底面を広くする
重心の位置を低くする
重心の移動をスムーズにする
重心を近づける
てこの原理を使う
利用者の身体を小さくまとめる
大きな筋群を使う


 

1.支持基底面を広くする

 

物体の重心を支えているのは、支持基底面です。支持基底面が広いと、物体は安定します。

支持基底面を広くする方法の図
↑こちらの図の(赤い部分)が、支持基底面となります。

 

実際に図のように立っていただくとわかると思いますが、両足を広げ、片足を斜め前におくことで、身体は最も安定します。支持基底面が広ければ、立位は安定し、エネルギーの消費量(筋肉活動量)が少なく、疲労が軽減されます。

 

 

 

2.重心の位置を低くする

↑綱引きのイメージ。

足を開き、膝を曲げて腰を落とした姿勢をとっています。

 

物体は、重心の位置が低いほど安定します。身体動作も同じく、重心を低くすることで姿勢の安定が保たれ、より効果的に力を発揮することができます。

 

 

 

3.重心の位置をスムーズにする

 

動作とは、加速・原則をともなう運動です。介助のとき、多くの場面で「1・2・3 !」あるいは「せーの !」とかけ声をかけたり、利用者にも声を出してもらったりします。スムーズな重心の移動を行うには、かけ声をかけてタイミングを合わせ、適度な加速・減速を行う必要があります。

また、声をかけることで、身体の筋肉もそのように準備を始めると言われています。

そのため、ボディメカニクスの活用に当たっては、人の自然な動きと重心の動きを理解することが大切と言えます。

 

 

 

4.重心を近づける

 

姿勢のことです。下の図をご覧ください。

物体を持ち上げる時の姿勢
↑物体を持ち上げる時の姿勢です。

 

上図の右のように持ち上げようとした場合、重心の位置が物体から離れていることがわかります。この姿勢では、持ち上げようとする人は腰に負担がかかり、腰痛の原因となってしまいます。

次に、

利用者と介助者の場合の持ち上げる姿勢
↑利用者と介助者の場合

 

介助者は、介助動作中の重心線が支持基底面内にある姿勢を維持しながら、利用者に重心線を近づけています。こうすることで、腰への負担は軽減し、大きな力も発揮しやすくなります。

介助動作に入る前の姿勢、すなわち身構え方がとても重要です。

 

 

 

5.てこの原理を使う

6.利用者の身体を小さくまとめる

 

てこの原理を応用することで、小さな力で大きな力を発揮させることができます。また、利用者の身体を小さくまとめる(身体の長さを短くする)ことで、身体の重心位置を変え、介助者の手のひらにかかる荷重を軽減させることができます。利用者の両腕を組む、両膝を立てる、足を組むなどです。

次の図は、てこの原理を応用した介助の一例です。

てこの原理を応用した介助の図

仰臥位から側臥位への体位変換の際に、介助者は、利用者の身体を小さくまとめ、肩と膝頭に手のひらを当てて回転させます。これは、「自然の動きに合わせた援助」です。健常者であっても、寝返りをする時は片膝、あるいは両膝を立てて、腰と肩を回転させています。その自然な動きに合わせ、かつ、てこの原理を応用した一例です。

 

 

 

7.大きな筋群を使う

 

身体介護は、大きな力を必要とします。腕だけ、あるいは足の力だけに頼るのではなく、大きな筋群を使えば大きな力を発揮することができます。

筋の各部位名称
↑筋の名称

 

大きな筋群(大筋群)とは、大胸筋、広背筋、大腿四頭筋、腹直筋、大殿筋、脊柱起立筋のことを言います。これらの筋は、出す力も大きく、疲労しにくいという性質をもっています。

 

 

 

 

以上、「ボディメカニクス」の7原則についてご紹介させていただきました。

 

 

介護におけるボディメカニクスの活用は、介助者の負担を減少させるために用いられるものですが、利用者の負担を最大限に考慮する必要があります。安全・安楽と、利用者の持っている力を引き出す、生かす視点が大切です。

重心移動は、一定の速度をもって行いますが、臥床している利用者を急に起こしたりすると、起立性低血圧を招く場合もあります。動作の速度は利用者の身体状態に合わせることも大切といえます。

また、介助者の発揮する力が、利用者の緊張や不安を高めることもあります。不安のあまり、介助者が動かそうとしている向きと反対に利用者の力が働くこともあります。

 

そのため、これからどのような動作を行うのか、介助者が利用者に事前の言葉かけをすることがとても重要です。

 

介護は、介助する側とされる側の協働での作業ですので、両者の心理状態が影響します。利用者が身体を任せられるだけの安心感、信頼感が必要です。

 

 

“介護は力仕事” と耳にすることがありますが、確かに力を使う仕事であるように思います。しかし、そのように聞くと、「力に自信がないなあ」とか、「私にはできないなあ」と、どうしてもできない方向へ考えてしまうことはないでしょうか?今回のボディメカニクスのご紹介を通して「力」には使い方があるということを知り、介護の現場以外でも、例えば買い物したものを持ち上げる時、下に落とした物を拾う時、家具を動かす時など日常生活の中でも意識をするだけで「力」に対するイメージは変わることを知っていただければと思います。

 

 

 

鈴木恵太

 

 

 

 

引用・参考文献

『介護職員初任者研修テキスト(第2版 第2刷)第3巻 こころとからだのしくみ』一般財団法人 長寿社会開発センター